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文系のためのバイオ医薬系特許/論文翻訳入門(2)

翻訳学習者にとって大切なことは、「自分で調べ、自分で学ぶ」ことです。
特許翻訳で求められる翻訳は、直訳であって直訳ではない翻訳です。
それを学ぶためには、自分で翻訳し、第三者にチェックしてもらい、チェック内容を議論していくことが大切です。

私の考える特許翻訳者は、

単なる「翻訳マシーン」としてではなく、”特許事務所で技術者として明細書作成/中間処理等も従事できる能力を備えた人”です。

なぜなら、特許翻訳の産物は、特許権を得るための手段であるからです。
特許取得後の権利行使をも考えることが大事です。
特許事務所の求める翻訳者/技術者をめざしましょう!

<特許明細書について>
特許翻訳者の方が翻訳する特許明細書は科学論文+αのようなものです。
米国では、論文作成してそれを仮特許出願として出願し、その後、正式の明細書を準備するという方法が採られています。

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特許明細書と科学論文の構成の比較



<バイオテクノロジーの基礎を学習するにはどうしたらいいか?>
体験レッスンや授業でもよく質問されますが、文系出身の方がバイオテクノロジーの基礎を一通り学ぶにはどうしたらいいのでしょうか?
それは、大学で使用されている教科書一冊を一通り読破することです。

「翻訳の現場では教科書なんて必要ではありません。」
「ネットで調べれば十分。」

そんなことを言えるのは、既に科学の素養を身につけた方でしょう。

文系出身の方は、せっかく学習するなら、誰かの指導のもとで、
内容をまとめて説明してもらったり、重要なところを指摘してもらいながら、
教科書の一冊ぐらい、読んでおいたほうがいいように思います。

たしかに、教科書の内容のなかには、実際の翻訳現場では無関係なことも多く含まれます。
しかし、特定の技術だけをつまみ食いするのではなく、教科書を読むって大事です。

それはなぜか?
もちろん、覚えるためではありません。

特定の技術を含む学問全体の流れを大まかに「感じる」ためです。
その学問の言葉の大海を肌で感じるためです。
学問は歴史であり哲学です。教科書は学問の歴史書であり哲学書です。
1つの教科書を幹とし、その幹を飾る枝葉として他の教科書や論文、中高参考書、入門書等に触れる。
そんな時期が半年や1年、あってもいいように思います。

特許翻訳は奥深いものです。
つまみ食い的な学習で特許翻訳ができると感じるようでは、まだ初心者です。
翻訳の際、大きな落とし穴に落ちいる可能性があります。
落とし穴に落ちて気がついてください。

とりあえず、小さな落とし穴の例を挙げます。

<英語に自信がある文系翻訳者であって教科書を一通り学んでいない翻訳者に見られるミスの例>

遺伝子変異に関する基本的な用語の訳にミスが見られます。

deletion, insertion, substitution, duplication

これらの単語は、それぞれ塩基の欠失、挿入、置換、重複 を意味しています。

簡単な単語なので、そのまま単語に関する知識に基づいて、
使用されている背景や意味を考えずに訳しています。

教科書に出てくる基本的な表現を誤ると、
「畑違いの人が翻訳しているな」とすぐ見破られてしまいます。

学習は急がば回れです。
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★講座情報★
染谷先生が担当する「特許翻訳(バイオ・医薬)コース」では、ブログの中にも紹介したように、バイオ・医薬分野の実験方法の解説も行います。
バイオ・医薬分野の学習を初めてされる方でもご受講いただけます。
ぜひご受講をお待ちしております!

特許翻訳(バイオ・医薬)コースの詳細はこちら

特許翻訳(バイオ・医薬) 体験レッスン

<内容>
ノーベル賞を受賞した大隅教授が研究しているオートファジーの特許明細書を題材に、バイオ医薬分野の特許翻訳にチャレンジしてみます。


レッスン日
  • 3/11(土)11:00-12:30
  • 3/18(土)11:30-13:00

担当教師


特許翻訳(バイオ・医薬)コース

ILC専任講師 染谷 悦男 先生

筑波大学大学院生物物理化学専攻。特許事務所で翻訳や特許明細書作成などの実務に従事した後、フリーの特許翻訳者として独立。現在は、バイオ、電子機器、半導体分野を中心に特許翻訳者として活躍。

【コメント】
特許翻訳で主に扱う特許明細書は定型的な文書で、書き方・訳し方のルールが決まっています。その基本はきちんと勉強すれば誰でも体得できるものであり、電気、機械など他分野の特許翻訳に応用することも可能です。

特許翻訳は直訳が基本なので、足したり引いたりしない直訳のやり方も演習を通して身につけます。特許文書というと独特の文章で書かれているというイメージがあるかもしれませんが、最近はどんどんシンプルになり、テクニカルライティングに近い論理的なライティング力が求められるようになっています。直訳でシンプルに訳す特許翻訳の演習を通じてライティング力を磨けば、他分野の技術翻訳などに必ず役立つと思います。
学ぶべきことは多いので、6ヵ月という限られた受講期間中にすべてを網羅することはできません。このため、私は修了後も自分で勉強を続けられる環境をつくってほしいと思い、月に数回、授業の後に修了生、受講生とともに自主的な勉強会を開いています。特許翻訳者、メディカル翻訳者として活躍する修了生もいるので、情報交換をしながら、タテヨコのつながりを深めてほしい。互いに助け合ったり刺激し合ったりできる翻訳者仲間、ネットワークを持つことは仕事を続けていく上で、とても貴重なものになるはずです。