長谷川さん
児童出版社で秘書をしていた時、企画会議用に児童書の一部を翻訳する仕事がありました。この原文にふさわしい日本語はなんだろうか、と考えるのがとても面白く、翻訳の仕事を依頼されるのが楽しみでした。年齢的に遅いスタートでも長く続けられる仕事をずっと探していた時でしたので、これだ、と思いました。映像翻訳も含めさまざまな分野の体験レッスンを受けてみましたが、生物を専攻していたせいか一番興味があり、さらに需要も多いという点から医薬分野に決めました。 |
医薬翻訳とは何をするのかを知るために、メディカル翻訳の講座がある学校をピックアップし、料金と講座内容、そして1年間の学習の後にトライアルのチャンスがもらえるという点からILCに決め、基礎コースと上級コースに通学しました。このほかに短期講座や通信教育も受けました。先生から、プロになるには和文英文を合わせて少なくとも腰の高さくらいまでの量をこなしてからだよ、と言われたので、翻訳会社の翻訳者でありコーディネータでもある友人から在学中に声をかけられたのを機に、校正と翻訳の仕事を開始し、できるだけたくさんの論文や報告書を読むようにしました。 |
英文と日本語の訳文がそろったものを用意し、英文を日本語訳とを比べながら書き写すことです。学校で勉強していた時にできるだけたくさん読みたいと思って始めましたが、とても有効です。用語、真似をしたい英文の表現、今まで悩まされてきた動詞の処理の仕方などを蓄積して利用できるようにしています。 |
翻訳者は、チェッカー、編集者、コーディネータなどで構成される、ある案件のプロジェクトチームの一員です。全体で高品質な成果物を納品するために、翻訳という割り当てられた部分で最高のパフォーマンスができるように努めています。不明なことは丁寧に調べ、著者の意図、クライアントの要望に合った翻訳となるように心掛けています。 |
地元の変電所のトラブルで突然電源が落ちたとき。いきなりモニターが真っ暗になり、頭の中は真っ白になりました。数十分後に復旧して作業中の文書は無事復元できたので安堵しましたが、当時はセカンドマシンを持っていなかったため、残りの膨大な量の原稿と納期を思って相当肝が冷えました。これ以降は、セカンドを用意し、こまめにバックアップしています。 |
言葉のプロですから、言葉に敏感でなければならないと考えます。これではおかしい、もっと調べる必要がある、という直観を大切にしてください。 |
学校は、仕事のアウトラインを知り、翻訳作業をするときの手段(調べ物やPCの環境など)を学び、人脈作りをする場だと考えます。学んだことを生かせるのは現場です。なかなか自信が持てない、と何年も学習を続けるよりも、例えば1年後には必ずトライアルを受けて合格する気概で勉強するべきでしょう。さまざまな案件をこなす過程で経験したことはすべて翻訳者の力となります。翻訳者という職業は、奥の深い、長く続けられる、やりがいのある職業だと思っています。漠然と「なろう」ではなく、「なっている」姿を心に描いてこれからも頑張ってください。 |