今回は本校の「翻訳者に必要なPCスキルセミナー」講師である糸目 慈樹(いとめ しげき)氏に、なぜ翻訳者にとってパソコンスキルが重要なのか?についてお伺いしました。

翻訳者に必要なPCスキルセミナー


なぜ翻訳者にとって、パソコンスキルが重要なのか?
 

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これから翻訳の仕事に就こうとする方にとって、「翻訳にパソコン力?」と違和感を覚える方が少なからずいると思います。因みにここでいう「パソコン力」とは、パソコンの操作だけではなく、いわゆるIT(情報技術)全般のスキルや知識の総称です。

翻訳といえば、語学のスキルを使った仕事という印象が強く、実際にこの解釈は間違っていません。原文を読み取る「読解力」、読み取った内容を別の言語に変換する「語学力」、用語や翻訳する文書の内容について調べる「調査力」は、翻訳者にとって欠かせない素養です。

一方、パソコン力はどうでしょう。「パソコンは苦手なんですよね」、「パソコンは最低限のことしか知りません」というプロの翻訳者は珍しくありません。

しかし、考えてみればこの事実はすこし奇妙です。

今日の翻訳業界では、翻訳文をパソコン上で入力し、ワードファイルやテキストファイル等、何らかのデータ形式で納品することが一般的です。また、Trados 等に代表される翻訳支援ツール(Computer Assisted Translation tool: CAT tool)を使って翻訳の受任・納品が行われることも珍しくありません。

つまり、翻訳の分野に関わらず、翻訳者にとってパソコンは必須の商売道具と言っても過言ではありません。この必須の商売道具について、理解を深めて使いこなす力をつけることは決して無駄なことではなく、寧ろ推奨されるべきことだと考えています。

では、実際にパソコン力を向上すれば、翻訳者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。例えば、以下のようなものが考えられます。


(1)パソコンをより使いやすくカスタマイズできると作業効率化、時短が可能

翻訳者が仕事を受けて、翻訳し、成果物を依頼元に納品するまでの間に多くの「面倒な作業」が発生します。この面倒な作業とは、例えば繰り返しの多い作業や手数の多い作業です。この「面倒な作業」を楽にするために、様々なソフトウェアが有料/無料で提供されています。しかし、ソフトウェアは多くのユーザー向けに作られている場合が多く、痒いところに手が届かない場合もあります。

こういう痒いところに手が届くのが「マクロ」と呼ばれるものです。翻訳者の間で一般的にマクロと呼ばれるものには、ワードマクロ、エクセルマクロ、秀丸マクロ等があります。マクロと言えば、プログラミングのようなもので、自分には無理と考える人もいると思います。マクロを自作できれば理想的ですが、マクロが得意な人にマクロを作ってもらったり、ネットで公開されているものを利用したりすれば、自作の必要はありません。しかし、他人が作ったマクロを利用するにも、多少の知識がなければなりません。

様々なソフトウェアやマクロを日々の翻訳作業で活用できるようになるためには、パソコン力が必要になります。

(2)パソコン力があると、自己問題解決能力がアップする

パソコンでの作業時に、原因不明の不具合に悩まされることは結構あります。ネット検索で解決方法を調べても、専門用語だらけで何を言っているのかわからないし、どこから手を付ければいいのかさえもわからないということも多々あります。周りに、パソコンをよく知っている方がいればいいのですが、そういう人がいつもいるとは限りません。

パソコン力があれば、ある程度の問題は自分で調べて対処できるようになります。私はよく「鼻がきく」と言う表現を使いますが、パソコン力があれば問題解決の方法を見つけやすくなります。


(3)CAT TooL 案件を受注できる

上でも述べましたが、近年Trados, memoQ, Memsource等のCAT toolを用いて仕事を受任/納品するケースが、翻訳の種類を問わず増えてきています。これまで、ワードやテキストファイルのみで仕事をしていた人にとって、CAT toolは馴染みにくく、戸惑うこともあるかと思います。しかし、ここでもパソコン力があれば「鼻がきく」ので、比較的短時間で慣れることができます。

今後CAT toolを使った仕事は益々主流になっていくことが予想されます。今は、CAT toolを使う仕事は断るという手もありますが、CAT toolの仕事も問題なくこなせるようになっていた方が、長い目で見れば得策だと思います。


(4)業界の変化に合わせた、柔軟な対応ができる

近年翻訳業界で起こった画期的な変化といえば、ニューラル機械翻訳エンジンの登場でしょう。この機械翻訳で行った翻訳結果を人が見て校閲(Post-Edit)して納品する、"Postediting Machine Translation" (PEMT)というビジネスモデルも既に広まりつつあります。機械翻訳やPEMTに関しては、まだまだ賛否両論ありますが、どちらもこの先確実に発展し、浸透していくことでしょう。

PEMTにおいて人の役割は、従来のように、訳文を一から入力するのではなく、端的に言えば翻訳チェックを行うことです。この翻訳チェック作業にも、マクロや、正規表現/ワイルドカード等を活用すれば、機械翻訳独特のエラーを検出したり、正しい表現に置換したりする事ができます。人は、文書全体の流れや誤訳検出など、人にしか行えない翻訳チェックに集中できます。パソコン力があれば、通常の翻訳案件でも、機械翻訳を組み合わせることによって生産性を高めることができます。

以上、パソコン力が向上することによって翻訳者にどのようなメリットがあるのかについて、思いつくまま書き綴ってみました。「翻訳」という仕事において、パソコンや情報技術の重要性は増々高まっていくことでしょう。

プログラマやSEほどの知識やスキルは必要ありませんが、パソコンやツールに振り回されない程度のパソコン力を身につけることは、これからの翻訳者にとって必須の課題だと考えています。

本校では、上記に必要なスキルを学べるセミナーを実施しています。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。

翻訳者に必要なPCスキルセミナー