こんにちは、ILC国際語学センターです。

翻訳需要が高いと言われるバイオ医薬分野ですが、
文系出身の方やバイオ医薬分野を初めて勉強する方のなかには、
難しそうと感じている方も多いのではないでしょうか。

そんな皆さんを対象に、今回より、特許翻訳コース担当講師の染谷悦男先生が、
バイオ・医薬の基礎知識を紹介していきます。

これからバイオ・医薬分野の特許翻訳の学習を始めようと思っている方必見です!

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文系のためのバイオ医薬系特許/論文翻訳入門(1)

皆さんこんにちは。
このブログでは、今後、翻訳学習(日英・英日)という観点から、
分子遺伝学や免疫化学等の研究で用いられる実験器具や材料、実験操作方法等のみならず、
それらを理解するための基礎知識を紹介してゆきたいと思います。

「なぜ実験器具や材料?」と疑問に持つ方もいらっしゃるのではないかと思いますが、
理系論文(特許明細書等も含む)の中心をなす部分は実験に関する記載です。

バイオ医薬分野の特許のみならず、バイオ医薬系の論文や報告書の多くは、実験結果をもとに新たな発見や知見を公表します。

実際の翻訳対象に実験方法(実験例、実施例)が占める割合は大きいです。
2/3以上を占める場合もあります。

例えば、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典氏らの論文の1つ。

The Thermotolerant Yeast Kluyveromyces marxianus Is a Useful Organism for Structural and Biochemical Studies of Autophagy
J. Biol. Chem., 10.1074/jbc.M115.684233(2015)


引用文献等を紹介する部分を除いた本文のうち、実験とその結果の説明が占める割合は、約1/2にもわたります。
そのため、翻訳者は実験器具や方法を理解することがとても重要になりますので、
翻訳学習の段階からそれらの理解に努めましょう。

しかし、実験方法については丁寧に書かれている教科書などはないため、
なかなか学ぶ機会がないままに、時間ばかりが過ぎていきます。

「ピペットやビーカーはわかるけど、ピペットマンって、ピペットを操作する専門家!?」
なんて本気に悩むことがあるでしょう。

ピペットマン?

pippetman
バイオ医薬系の学部出身者にとっては当たり前のことでも、
今まで学習をしたことがない人にとっては辞書を調べてもわからないことが多いです。

例えば、“— cells were vortexed —“ という英文。

Aさんは、高校時代から愛用している辞書で”vortex” という単語を調べました。
名詞の「渦」、「渦巻き」が出てきました。
しかし、動詞や形容詞としては出ていません。

そこで、Aさんは悩んだあげく、「細胞の渦を形成した」と訳しました。

これを読んだAさんの息子(某大学理学部4年生)は笑いました。
バイオ医薬系の実験室では必需品の器具を用いた作業の英語表現だからです。

vortexは、バイオ医薬系の基本英単語です。
カタカナで表現するとボルテックス。
試験管ミキサーの元祖とも言えるサイエンティフィックインダストリーズ社の製品、ボルテックスミキサーの通称です。

動詞として使われる場合、ボルテックスミキサーまたは同等の器具を用いて攪拌することを意味します。
「ボルテックスする」、「ボルテックスにかける」、「ボルテックスミキサーを用いて攪拌する」等と訳されます。

百聞は一見に如かず。
動画サイト”Youtube” で “vortex mixer” を見てください。
瞬時にわかりますよ!

翻訳対象である特許文献や論文等を読む場合、特に実験方法に関するところでは、字面を追うだけではなく具体的にイメージすることが大切です。
イメージが湧かない場合は、“Youtube”をうまく利用してみるとよいでしょう。

なお、冒頭に記した「ピペットマン」。
マイクロピペットの元祖PIPETMANです。これも”Youtube” で確認してください。

最後に、ちょっと難しい問題。
”biotinylated probe”の訳は?

「ビオチン化探針」?
「ビオチン化ゾンデ」?

違います。

正解は、「ビオチン標識プローブ」(または「ビオチン化プローブ」) です。

ビオチンと特異的相互作用を示す核酸を検出するための標識分子(プローブ)です。

放射性同位元素で核酸を標識せずに、ビオチンという物質で核酸を標識します。
このビオチンと特異的に反応する物質や発色する物質を利用して、特定の核酸の検出に用いられます。

なお、特許庁では特許に関連する標準化された技術を
「標準技術集」
(https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu.htm)
としてまとめ、HPにアップしています。ぜひご参考にしてみてください。

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★講座情報★
染谷先生が担当する「特許翻訳(バイオ・医薬)コース」では、ブログの中にも紹介したように、バイオ・医薬分野の実験方法の解説も行います。
バイオ・医薬分野の学習を初めてされる方でもご受講いただけます。
ぜひご受講をお待ちしております!

特許翻訳(バイオ・医薬)コースの詳細はこちら

特許翻訳(バイオ・医薬) 体験レッスン 

<内容>
ノーベル賞を受賞した大隅教授が研究しているオートファジーの特許明細書を題材に、バイオ医薬分野の特許翻訳にチャレンジしてみます。

レッスン日
  • 3/11(土)11:00-12:30
  • 3/18(土)11:30-13:00

担当教師

特許翻訳(バイオ・医薬)コース

ILC専任講師 染谷 悦男 先生

筑波大学大学院生物物理化学専攻。特許事務所で翻訳や特許明細書作成などの実務に従事した後、フリーの特許翻訳者として独立。現在は、バイオ、電子機器、半導体分野を中心に特許翻訳者として活躍。

【コメント】
特許翻訳で主に扱う特許明細書は定型的な文書で、書き方・訳し方のルールが決まっています。その基本はきちんと勉強すれば誰でも体得できるものであり、電気、機械など他分野の特許翻訳に応用することも可能です。 

特許翻訳は直訳が基本なので、足したり引いたりしない直訳のやり方も演習を通して身につけます。特許文書というと独特の文章で書かれているというイメージがあるかもしれませんが、最近はどんどんシンプルになり、テクニカルライティングに近い論理的なライティング力が求められるようになっています。直訳でシンプルに訳す特許翻訳の演習を通じてライティング力を磨けば、他分野の技術翻訳などに必ず役立つと思います。 
学ぶべきことは多いので、6ヵ月という限られた受講期間中にすべてを網羅することはできません。このため、私は修了後も自分で勉強を続けられる環境をつくってほしいと思い、月に数回、授業の後に修了生、受講生とともに自主的な勉強会を開いています。特許翻訳者、メディカル翻訳者として活躍する修了生もいるので、情報交換をしながら、タテヨコのつながりを深めてほしい。互いに助け合ったり刺激し合ったりできる翻訳者仲間、ネットワークを持つことは仕事を続けていく上で、とても貴重なものになるはずです。