9/13(日)、「メディカル翻訳者・特許翻訳者を目指す方のためのセミナー」を開催しました。

第一部は、翻訳会社実務者の方によるパネルディスカッションを開催いたしました。
当校実務翻訳プログラムの修了生向けトライアル団体受験にご協力をいただいている株式会社ホンヤク社の成田様、株式会社アスカコーポレーションの駒田様にパネラーとしてご参加いただきました。

今回のセミナーでは、下記トピックスについてお話いただきました。
(1)翻訳業界の最近の動向(翻訳需要、翻訳サービス規格「ISO17100」について)
(2)翻訳会社・クライアントの方が求める理想的な翻訳者像
  (英語レベルや求められる専門知識など)
(3)トライアルを受験するうえで気をつけるべきこと
(4)こんな翻訳者なら継続してお願いしたい
(5)翻訳者を目指す皆様へ一言

お話いただいた内容の一部をご紹介します。

◆Q.1近年の翻訳業界の大きな動きとしては、翻訳サービスの国際規格である「ISO17100」が選定されました。株式会社ホンヤク社様、株式会社アスカコーポレーション様両社ともISOを取得されたとのことですが、翻訳の受注やクライアントの対応などで何か変化はございましたか。◆

(株式会社ホンヤク社 成田様)
まだ日本国内でも認知度は低いようで、多少の問い合わせや、当社エントランスや名刺に掲げているISOロゴに対する反応があった程度のものです。翻訳者についてはISO内での要求事項がありますが、当社では「登録してから一定以上の年数にわたって一定量の仕事を依頼した翻訳者」をISO翻訳者として社内認定しました。ですが、今後どのようにISOを活用していくかがまだ定まっていないため、翻訳者選定などにおいてもまだ大きな変化はありません。

(アスカコーポレーション 駒田様)
お取引先の種類が大きく変わることはありませんが、今後、従来のお客様からも、ISO認証の有無を確認されることが増えてくるのではないかと思います。新規のお客様も同様です。
ISOを取得していない場合、入札などで最初からスタートラインに立てない場合も出てくるかもしれません。具体的には、認証取得後はISOが適用されるサービスとそうでないもの(依頼する翻訳者さん・チェッカーさんの資格や、作業プロセスがISOの要求事項を満たしているかどうかで変わってきます)とを使い分けて、お客様にご発注のつど選択いただくことになると思います。
当然、ISO適用のサービスには付加価値がつきますので、ISOの要件を満たしている翻訳者の方は歓迎、ということになりそうです。
ただ、経歴などの要件を最初から満たせる新人さんはいらっしゃいませんし、弊社では翻訳者さんを育てる、という取り組みも重視しているので、可能性を感じる方ならどんどん採用させていただいて、弊社でのお仕事を通じてISO要件を満たしていただけるようバックアップしていくつもりです。

◆Q2.プロの翻訳者の方にはどの程度の英語力/日本語力は必要とされるのでしょうか?また分野別によっても必要とされるレベルは変わってくるのでしょうか?◆

(株式会社ホンヤク社 成田様)
翻訳では、英検やTOEICなどとは求められるものが異なるため、それらのスコアは高いに越したことはないものの、当社ではそのような資格・検定等のレベルをあまり重視するということはありません。
ただ、JTFのほんやく検定のような業界団体の資格、工業英検、あるいはILCのような学校を卒業していることなどは、翻訳のパフォーマンスに直接影響するものと考えております。分野によって必要とされる語学レベルは、基本的に変わりません。
当社で考える「良い翻訳」とは、原文が過不足なく訳されていて、かつ訳文単品で見ても読みやすい、ということです。
そのためには、原文言語の理解力、原文言語を訳文言語に変える力、訳文言語の作文力という3つの力が必要だと考えています。


(株式会社アスカコーポレーション 駒田様)
英語のレベルを測るには一般にTOEICやTOEFLなどの指標がありますが、これらの点数は翻訳者としての実力とはあまり関係ないのではないかと感じています。もちろん点数によって最低限のレベルというのは担保できますので、選考の際の参考にはさせていただいています。

では翻訳者として必要な語学レベルは、となると難しいのですが、結局はきちんとした文法と語彙を身につけることが第一だと思います。文法は大学受験レベルで十分です。ただ、そのレベルのことで漏れがないようにしてください。翻訳のトライアルや実際の仕事で納品される翻訳文を見ていると、専門知識の有無はともかくとして、まず教科書どおりの文法にのっとって原文を読み解き、その解釈をもとに訳文を手堅く組み立てる、ということができていないのではないか、と感じることがままあります。

また、外国語の力うんぬんの前に、まず母語となる日本語の力を磨いてください。外国語の運用能力は母語のそれを絶対に上回ることはない、というのは多くの専門家の指摘することです。文法にせよ語彙にせよ、母語との対比によって理解・増強してゆくものです。例えば、母語(日本語)で「休暇」という概念を知らなければ、英語の「vacation」という言葉を身につけることは不可能でしょう。

また、お仕事としての翻訳には、抽象的な語学力だけではなく、その分野特有の言葉づかいのストックが不可欠です。たとえ文法的にはおかしくなく、単語の意味も辞書的には正しくても、その領域では、文書ではそういう言い方はしないよ、という言葉づかいで訳されていれば(いわゆる勝手訳)、その訳文は使い物になりません。とにかく、自分が翻訳することになるであろう種類の文書を読み、用語・表現をできる限りストックし、いざ翻訳する時にはそうした資料の言葉をそのままパクる(つまり自分勝手な文を書かない)くらいのつもりでいたほうがいいと思います。

◆Q3.翻訳者を目指している方へ一言お願いします。◆

(株式会社ホンヤク社 成田様)
翻訳会社は常に良い翻訳者を求めています。受注の波や社内の事情などはあるものの、当社においても、また他社の話を聞いても同じと感じるのは、一定品質のお仕事を丁寧に行っていて、さらに言えば向上心を持って仕事に臨む方はとても翻訳会社にとってありがたい存在であり、継続依頼の可能性は高いです。また、ILCのような学校に通ったり、業界団体のイベントに参加したりすることで、業界内の知識や情報も得られるかと思いますので、ぜひそういった勉強も行ってくださればと思います。

(株式会社アスカコーポレーション 駒田様)
翻訳者の実力分布でいうと、率直に言って、だいたい可もなく不可もなく平均点、という方が大勢いて、その上に抜きんでた方が少数、という割合です。その少数者には仕事が集中します。ですので、ぜひ多数派から抜け出すことを考えてください。それは何も特別なことではなく、今日お話ししたことを誠実に実行いただければ誰にでも可能だと考えています。最低限の、基本的なことがおろそかになっている方が意外に多いのです。
翻訳者は常に不足しています。実力のある方には十分なお仕事をご提供できると思いますので、我こそはという方にはぜひ挑戦していただければと思います。お待ちしています。


★参加者の方の感想★
・翻訳会社の採用基準を知ることができて、これからトライアルを受けようと考えている自分にとって、とても有意義なセミナーでした。
・翻訳会社の考えや翻訳者に求める要素などがわかってよかった。本日のお話を聞いて翻訳者を目指す意欲がさらに出てきたので、いい経験ができた。
・最近の翻訳業界の動向や需要などについて、会社側のお話を伺うことができて大変参考になりました。ありがとうございました。

ご参加いただきました皆様ありがとうございました!

2019/3/10(日)に「フリーランス翻訳者を目指す人のためのセミナー」を開催いたします。詳細はこちら