社会・企業のDX(Digital transformation)化に伴い、デジタルを活用した新たなビジネスモデルやサービスが開発されています。翻訳業界では、機械翻訳やAI翻訳の進化により、機械翻訳で翻訳した訳文を人間が校正するポストエディット案件が増えています。また、翻訳会社やクライアント企業では、社内システムやワークフローの自動化・効率化により、ペーパーレス化や翻訳管理システムの導入などが進んでいます。企業によるDXの推進によって、翻訳者の働き方や取り巻く環境、業務内容も変化が生じてきており、翻訳者の方々はこれらの変化に柔軟に対応していく必要があります。

そこで、ILCでは、翻訳者として活躍している修了生の方々に、DX化による翻訳の仕事や環境の変化、これから求められるスキルなどについてインタビューしました。これから翻訳者を目指す方にとって参考になる内容をお話しいただきましたので、ここにインタビューの内容を紹介したいと思います。
第1回目は特許翻訳コース修了生の江口さんです。

プロフィール



特許翻訳コース修了生 江口さん
2012年にILC国際語学センターで特許翻訳コースを受講。現在、フリーランス特許翻訳者として活躍中。



現在従事されている翻訳の分野について教えてください。


 私は特許翻訳に従事しています。翻訳案件としては主に2種類の案件に対応しています。ひとつは翻訳方法に関して指定がなく原稿だけ渡される従来の案件、もうひとつは翻訳するさいにTradosを活用するよう翻訳会社から指定される案件です。Tradosを活用する案件は、過去の関連案件の翻訳メモリが割り当てられたTradosファイルを使用して翻訳します。過去の案件と類似度の高い文章については、既に翻訳文が入力された状態で翻訳会社から提供されます。

 最近ではTradosを活用する案件の割合が徐々に増えてきていますね。単価で言うと、翻訳方法に指定がない従来の案件が一番高くなります。Tradosを活用する案件は、翻訳メモリのマッチ率に応じて、単価が割り引かれる仕組みになっています。ですが、更に他の関連案件の翻訳結果も利用することができるので、翻訳メモリのマッチ率が高いと、その分作業効率は上がります。Tradosを活用する案件では、他の翻訳者さんの翻訳結果を知ることができるので、色々な発見があります。一方でおかしい翻訳をする訳にはいかない、という緊張感が高まりますね。

 言語方向は英語から日本語に対応しています。日本語から英語も学習はしているのですが、まだ仕事として受注はしていません。日本から外国への特許出願よりも、外国から日本への特許出願が多いためか、特許翻訳は英文和訳の方が和文英訳よりも多いのではないかと思います。ただ、色々な翻訳会社さんのホームページを見ていると、優秀な和文英訳の翻訳者は常に需要が高いようです。

江口さんはポストエディット案件を受注されていますか。


 ポストエディット案件に関してはこれまで依頼されたことはありません。翻訳会社さんの方では、ポストエディットの仕事も実施しているので、いずれは私にも案件の打診があるのではないかと思います。

ポストエディット案件は受注されていないということですが、翻訳作業で機械翻訳を使用したことはありますか。


 はい、翻訳結果のチェックとして独自に使用しています。ドキッとするほどの百点満点以上の結果が返ってくる場合と、殆ど零点といっていいような結果が返ってくる場合とがあります。訳文の品質の揺れが大きいですが、平均すると結構いい線をいっているとは思います。

機械翻訳を活用するうえで気を付けたほうがいいことはどのような点でしょうか。


 例えば、翻訳をする目的が、文書の概要を把握するだけであれば、機械翻訳だけで用は足りるかもしれません。
ですが、機械翻訳+ポストエディットをする場合は、どこに間違いが潜んでいるのか、目を皿のようにして訳文を精査する必要があります。一目で商品として使い物になるかどうか判別できる訳文はよいとして、中途半端な出来具合の文章は、チェックするのも訳文を修正するのも時間がかかると思います。
また、複数の訳語が考えられる言葉の場合、機械翻訳は訳語の選択を間違えることがあるので、機械翻訳が翻訳した訳語のチェックを丁寧に行う必要があると思います。

DX時代に求められる翻訳者像についてお聞かせください。


 機械翻訳は訳文の候補をあらかじめ自動入力してはくれますが、品質保証はしてくれませんし、訳文に責任は持ってくれません。機械が原文の意味を考えて翻訳する訳ではありません。ですので、どんなツールを使おうとも、原文の文意をきちんと理解したうえで訳文を仕上げていく、という翻訳の最も大事な作業自体は、やはり翻訳者が責任をもって行う必要があります。人手を介すること自体はなくならないのではないかと思います。
内容の理解力、調査能力、表現力は、翻訳者にとって今後も重要なスキルであり続けることは間違いないと思います。

江口さん、ご協力いただきましてありがとうございました!

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