社会・企業のDX(Digital transformation)化に伴い、デジタルを活用した新たなビジネスモデルやサービスが開発されています。翻訳業界では、機械翻訳やAI翻訳の進化により、機械翻訳で翻訳した訳文を人間が校正するポストエディット案件が増えています。また、翻訳会社やクライアント企業では、社内システムやワークフローの自動化・効率化により、ペーパーレス化や翻訳管理システムの導入などが進んでいます。企業によるDXの推進によって、翻訳者の働き方や取り巻く環境、業務内容も変化が生じてきており、翻訳者の方々はこれらの変化に柔軟に対応していく必要があります。

そこで、ILCでは、翻訳者として活躍している修了生の方々に、DX化による翻訳の仕事や環境の変化、DX時代に求められるスキルなどについてインタビューしました。これから翻訳者を目指す方にとって、参考になる内容をお話しいただきましたので、ここにインタビューの内容を紹介したいと思います。

プロフィール



メディカル翻訳コース修了生 渡辺さん

専業主婦の期間を挟んで印刷・グラフィックデザイン業界で勤務。50歳を過ぎて英語とPCスキルを活かして、CRO(医薬品開発業務受託機関)へ転職し英訳業務に携わる。フリーランス翻訳者を目指し、2013年にILC国際語学センターでメディカル翻訳コースを受講。コース修了後、ILCの団体トライアル受験を経て、フリーランス翻訳者としてデビュー。



現在従事されている翻訳の分野について教えてください。


 医薬分野、医療機器分野の翻訳に従事しています。ライフサイエンスと称する会社様もあります。

渡辺さんは翻訳の仕事で機械翻訳を活用されていますか。


 はい、使用しています。医薬(特に治験関連案件)分野の文書で使用しています。英語から日本語の英文和訳で使用しています。

どのようなときに機械翻訳を使用されているのですか。


 翻訳会社から引き合いのあった案件の概要を把握するために、原稿の中からめぼしい部分を選んで訳させ、対応可能か否かの判断の参考にしています。下訳として使用したり、訳文の候補を探したり、自分の訳文が妥当かどうかを判断したりするためにも使用しています。
それ以外にも、英語でコメントを付けるさいや、海外翻訳会社の翻訳コーディネーターとの英文メールのやりとりでも使っています。
すべての案件で、何らかの用途に機械翻訳を使用しています。

使用したことのある機械翻訳エンジンを教えてください。


DeepL Pro、みんなの自動翻訳@TexTra®、翻訳会社から提供されたものです。セキュリティの観点や原文/訳文の二次利用を考慮して、有料版を使用したり、訳出する文書にいます。

機械翻訳を導入されたことによって、訳文の納品までにかかる労力や時間は減っていますか。


 多少は減りましたが、目覚ましく減ったというわけではありません。

減ったと感じる労力や時間はどのような点ですか。


タイピング入力がかなり省けるので、慢性的な腱鞘炎っぽさが解消しました。また、訳文を作り始める前、文書の概要やポイントをつかむための時間とエネルギーが節約できています。

ポストエディット案件を請けたことはありますか。


あります。ただし、要求される仕上がりレベルは非ポストエディット案件と同じです。

全体の仕事のうち、PEの受注の割合を教えてください。


今のところ2割程度です。

機械翻訳の得意・苦手とするところはどのような点だと思われますか。

 
 得意なところは、とりあえず日本語で作文してくれることです。かなり自然な日本語になってきたと感じます。その訳文を、語順、訳語選択、こなれた表現を意識しながら修正していきますが、たたき台ができているとキーボード入力が減りますし、訳文を「練る」ことにエネルギーを振り向けられます。見慣れない語が使われていると思い調べてみたら、その訳語の方が、私が使うつもりだった訳語より適切だった、ということもあります。

 苦手なところは、訳語、文末など、訳出パターンの統一です。専門用語は、得意だったり苦手だったりとまちまちです。意訳しすぎて著者の意図が表現しきれていないとか、訳漏れと受け取られかねないこと、実際訳漏れだったことがあります。また、否定語の扱いがうまくないとも感じます。

機械翻訳や翻訳支援ツール以外に、業務効率のために活用しているデジタルツールがありましたら教えてください。


 「Xbench」と「Logophile」というアプリケーションを使用しています。「Xbench」は、単語帳と例文集を一括検索しています。Logophile」は、購入した辞書と自作辞書の一括検索用として使用しています。

DX化に伴い、翻訳会社やクライアントとのやりとりに変化はありましたか。

 
 コミュニケーションに関しては、従来通りメールでのやり取りになります。契約書や請求書などの原稿以外の書類は、以前からオンラインで行っているので、こちらも特に変化はありません。
データのやり取りは、オンライン上での受け取りをするようになってきました。昨年新しく登録した翻訳会社様はGoogle Driveでファイルを授受しています。以前からお取引がある翻訳会社様は、翻訳支援ツールツールからコネクトできるサーバーを使用するようになりました。

これからもDXは進んでいきますが、翻訳者にとって今後どのようなスキルが必要だと思われますか。


 PCリテラシーは、高ければ高いほど強みになると思います。MS Officeの操作に悩まないレベルであることは基本です。私も持っているMOS(Microsoft Office Specialist)の資格は、学習過程で身につけたスキルがさまざまに応用できるほか、履歴書に書けば翻訳会社から「PC操作に不安のない人材」と受け取ってもらえるのではないでしょうか。

 機械翻訳は文脈や背景を考慮しないので、考慮できるスキルが必要です。この点に気をつけて機械翻訳が翻訳した(間違ってはいない)訳文を修正すると、読みやすく腑に落ちる訳文にレベルアップした、と感じることはよくあります。ただしこれも、英語力、日本語力、調査能力あってのことですね。どちらかといえば日本語力の重要性を感じます。私自身、日本語のウォーミングアップとして毎朝、新聞を読んでいます。

 当たり前のことですが、ビジネスマナーも大切だと思います。社会人としてきちんとしたメール/電話/web処理を対応することで、担当者の信頼を得ることができます。速やかに、相談された案件を受けられないときはさらに迅速に、返信することを心がけましょう。

渡辺さん、ご協力いただきましてありがとうございました!


ILCメディカル翻訳コースの詳細はこちら
受講生・卒業生限定の 英語が活かせるお仕事